例えば君に恋しても


「それでいいよ。そうやって尖ってる美織が一番、美織らしい。」


私のことなど何も知らないくせに、私らしさを語らないでもらいたい。


それでも

自分でも、どの自分が自分らしいかなんてもう分からない。

どれも自分らしくて、どれも違う気がする。

仁は・・・自分のことを理解しているのだろうか?

「これから何処に行く?」

「仕事に戻りなよ」

「いいよべつに。俺がいなくても有能な部下がたくさんいるから、会社はちゃんとまわる。」


それは、自慢のように聞こえるけれど逆を言えば自分が必要とされてないのと同じだ。

居場所がないのだろうか・・・?

どこにも?


なんとなく

そんな所は似ている気がする。


私にもあのアパートがあるけど、心底、落ち着けるかと聞かれたらそんなことはない。

でも

あそこにはこどくが無いだけマシな気もする。

「美織が逝きたい場所ないなら、俺の行きたい所で決まりね」

勝手にそう決めた仁は、一度携帯を取り出して、直ぐにポケットにしまう。

その姿が不思議で首を傾げると

「車は嫌なんだよね?」と私を見てスタスタ歩き始める。


その彼の一言が意外だったけど、不意にあの日の光景が瞼に浮かんだ。

スーツを選べというから選んだ。

でもあのとき

瑛士さんを思い出して辛くなって・・・

仁は結局、そのスーツに袖を通さなかった。


それは単なる彼の気紛れなはずなのに

その前の私の表情を見て察してくれたのかも。

なんて考えるには都合が良すぎる話なんだろうか?

だから私は騙されるのだろうか?


今、私の事を気遣って車を呼ばなかったのも、策略なのか・・・


まるで読めない。

それは

新一さんと兄弟よく似てる。


何を考えてるのか分からない。


「早く来なよ」

少し怒った口調で

それでも立ち止まって待っててくれるのは

優しさなんかじゃないんだよね・・・?


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