例えば君に恋しても
「楽しめましたか?」

帰りの車の中で峯岸さんに聞かれた仁は「良い時間だった」と答えた。


良い時間。その言葉のチョイスは嫌いじゃあない。

「美織、また来よう?」

微笑む仁に私は何も言わずに頷いた。

いつもこんな風なら仁と一緒にいるのも悪くはないのだろうけど・・・


峯岸さんの言う通りなら好きな相手を突っぱねる性格なら、本来こんな風に普通に接することができる私は仁にとって、嫌いな相手ではないのだろうか?

嫌いな相手と過ごす良い時間って・・・

どんな感覚で彼は水族館での時間を過ごしていたのだろう・・・。


私には理解できない感覚が仁の中にはある。

良くも悪くも感受性の違いなのかもしれない。

でも

一旦落ち着くための時間と考えれば私にとっても良い時間だったのかもしれない。

要らないと思った恋心を一瞬でも忘れることができた時間。

でも

肩書だけの恋人ごっこなんて永遠に続くわけがない。

むしろ、そんなものは短命に終わる。

その終わりを迎えるときの未来図を仁はどんな風に描いているんだろう・・・。


その時

新一さんは一体、仁の中でどんな風になってるんだろう・・・


仁の中で繋がる未来に明かりはあるのだろうか?

まるで新一さんと仁は陽と陰だ・・・。






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