例えば君に恋しても


アパートについた頃には既に夕方に差し掛かっていた。

夕飯でも買いに行こうとそのままスーパーへ向かったけれど、レジでお財布を開けて血の気が引いた。

私の全財産数百円。

この買い物をしても明日から食べてくお金がない。

返品するには気が引けて

結局買い物を済ませたわいいけれど、頭の中はまっ白。

いや、真っ黒。

初任給までまだ数日はある。

架空の人物に貢いだせいで通帳の残高はゼロ。

それでも、何かの間違いで僅かでも残高があるかもしれないと、究極の願掛けをしながら近くの銀行のATMに通帳を記帳して

この目を疑った。


「残高100万円・・・?」

驚いて振り込み相手を見て言葉を失った。


今日の日付でこの多額のお金を振り込んできた相手

それは

この世界にいないはずの

朝倉瑛士


名前を見た瞬間

足の力が抜けてその場に座り込んだ。


瑛士さんは童里という男が演じていただけの架空の人物。


そして

瑛士さんの声で昨夜ハッキリと私を壊れた玩具と言った

その男から

貢いだ分と同じ金額のお金が振り込みされている。


「なんで・・・?」

もしかしたら、昨日久しぶりに私の名前を聞いて

私への気持ちを思い出してくれた?

いや、そんなことあるはずがない。

だって

昨日の彼の声色は聞いたことないほど冷酷な言葉を楽しげに話していた。


じゃあ一体なんのために、騙した相手にお金を戻したの・・・?


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