例えば君に恋しても
仁が屋敷に戻ったのか会社に戻ったのか分からなくても仁の職場なんて知らない私の選択肢は屋敷しかない。
門番がいるわけでもないけれど、敷地に勝手に入ってくのを誰かに見られて問題になってしまわないかも気になって
敷地に入ってすぐの雑木脇に車を停車させた。
森林とも呼べる道を道なりに歩いていく。
ただ
知りたかった
瑛士さんが今になってお金を返してくれた理由を。
知る方法はただ一つ。
仁を頼る以外、他はない。
そんな理由を今さら知ってどうしたいのかなんて分からない。
何を言ってもらいたいかも分からない。
期待しても裏切られるだけかもしれない。
それでも
何かを期待してるのか
体が勝手に動くんだ。
暫く歩くと市橋の当主が住む大きな屋敷が見えた。
その手前の人気のない花畑を潜り抜けようと足を踏み入れた瞬間
突然、後ろから口を覆われて
こもる悲鳴は誰にも知られることなく覆われた口の中で消えた。
「久しぶり。なんでこんな所にいるの?」
新一さんの声に驚いて顔をあげると、そこにいたのは邦弘だった。
動揺のあまり、新一さんとの声の区別が全くつかなかった。
心臓は驚きのあまり、バクバクと激しい音をたてている。