例えば君に恋しても
裏切りの婚約者
リビングの扉を開けて、入ってく彼女の背中を真っ直ぐ前を見て付いていく。
よく少女漫画にでてきそうなお城のダイニングテーブルのような、もう私の知らない世界がその10坪位はあるリビングに所狭しと置かれてる。
上座にいるのは、市橋当主夫妻。
車椅子に座り、点滴の管を通し、人工呼吸機を頼ってる姿が痛々しくても、ドッシリと身構えた貫禄のある姿は、彼がまだ現当主である証拠だ。
私に気付いた邦弘は咳払いをしながら必死に笑いに堪えてるのが分かる。
仁に至っては幽霊を見るような目で私を見ていた。
そして
眉間に皺を寄せて苦しそうに見つめる新一さんと数秒目が合い、香里奈さんがその向の椅子に腰を下ろした所で、私は姿勢を整えその後ろに立つ。
「香里奈さん、部外者は外にだして下さい」
穏やかな中にも冷たさのある声をあげたのは、三兄弟の母親だった。
「おば様、この度の件で私は深く傷ついています。
信頼ある誰かに側にいてもらわなきゃ、この会議に参加できません。
私の気持ちが落ち着けば彼女を外にだします。」
この度の件という言葉に、一瞬反応した婦人が咳払いをして誤魔化す。
そして、喋るのもままならない当主の代わりに口火をきった。