例えば君に恋しても
「前にも話はしましたけれど、貴殿方のお父様はもう、口をきくこともまはまなりません。
先伸ばしにしていた跡取りの話をしたくて今回は集まってもらいました。」
まるで会社の会議のようで、これが死期の近い大切な家族のいる、家族会議なのかと思うと切なくなる。
邦弘以外は皆、婦人に視線を注いでいる。
「邦弘さん。あなたも立派な跡取り候補。そんな態度では困りますよ」
苛立ったような婦人の声に一番に反応しているのは仁だ。
だらしなく椅子の背もたれに腰ををかける邦弘の隣で彼を睨み付けている。
「おば様、無理に話を進めようとなさってるみたいですけれども・・・
私がここに来たのはあくまでも仁さんから届いた例の写真の件ですわ。
最も、新一さんに恋人がいらっしゃるなら私は結婚などするきもありませんし、豊穣家としても、女遊びの激しい男に私を嫁がせるつもりはないと、言付けを預かっています。」
香里奈さんを睨み付ける婦人は小さな声でぶつぶつと何か文句のように呟く。
「跡取りはともかく俺はあんな画像送った覚えはない。」
真っ直ぐに私を見つめた仁。
その言葉がどこまで真実なのか私には分かるわけもない。
最早、仁を信じたい気持ちなどこれっぽっちもない。
「でも、そうね。発信源はあなたなのよね。それに覚えがないというのは些か不解だわ。」
香里奈さんの言葉に邦弘が頷くとき
静かに手を挙げたのは新一さんだった。
「俺は・・・跡取りを辞退する。」
その言葉に一瞬で新一さんに注目が集まった。