例えば君に恋しても


空いてる部屋で着替えを済ませ、急いで屋敷を出たあと

隼人から借りた車に乗り込みメモを開く。

そこに書かれていた連絡先を見て

携帯を取り出した。

そして、今になって急に不安になってしまった・・・。


今さら

電話して

どうすればいいのだろうか・・・

もう、婚約者でも

恋人でも、友達でもない。

騙し騙されただけの関係に・・・

私は瑛士さんから何を聞きたいのだろうか。


携帯の画面が暗くなる。

電話なんかかけないで

最早、お金だけでも返してもらえたと、何事もなかったかのように

忘れてしまうのが幸せなのだろうか・・・。


結局は瑛士さんから連絡などきていないのだから・・・

彼に連絡をとろうとすること自体が未練がましいのだろうか・・・。

車の時計は午後8時を過ぎていた。


「そういえば車・・・早く返す約束したんだっけ・・・」


背もたれに深く腰をかけ

暫くの間

フロントガラスを染める闇を見つめていた。



「ひとまず帰らなきゃ・・・」



それから数日、ずっと頭の中で悶々と考えていた。

瑛士さんどころか、新一さんにも、誰にも会いたくなくて、体調不良と嘘をつき仕事を休んでアパートのせんべい布団の中でかたつむりのように生活していた。


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