例えば君に恋しても
コンコンッ
部屋の戸をノックする音。
誰にも会いたくないのに・・・。
「どうぞ・・・」わざと低い声をかけると、心配そうに眉を下げながら絢香が顔を見せた。
手にはプリンを持っている。
「今日、早く上がったんだ。調子どう?まだ体調治らない?」
「・・・うん。」
体を起こすと頭の重みで項垂れた。
ずっと体を倒していたからだろうか。変な倦怠感で、頭の中がボーッとする。
「お土産。ぷりん買ってきたから食べれそうな時に食べなよ」
「・・・ありがとう。」
「・・・何かあった?
もしかしてこの間、ファミレスで会った人が原因とか?」
優しく頬笑む絢香に苦笑いを返し小さな2ドアの冷蔵庫から麦茶をだして段ボールのテーブルの上に置いた。
「テーブル買わないの?」
「特に必要さを感じてなくて・・・」
「このアパートに長居するつもりはないの?」
「・・・分からない。」
「ファミレスで会った・・・新一って人だっけ?
綾瀬さんのこと好きなんじゃない?」
「・・・やめてよ。」
新一さんには嫌われたに決まってる。
いつもいつも差しのべてくれた手を利用するだけ利用して
結局は彼を傷つけたんだから。
「綾瀬さんも好きなんでしょ。彼のこと」
「・・・どうして?」
「だって顔に書いてあるから。」
悪戯に笑う絢香に、私も観念したように頷いた。