例えば君に恋しても


どうして?

なんで?

仁の恋人になった私なんか嫌いになったはずでしょ?

傷つけた私なんか嫌いになって普通でしょ?

それなのにどうして・・・?


彼がどの道を歩いてるかも分からないくせに、やみくもに走っていた。

幾つめの信号を越えようとした時

信号の向こうに

その後ろ姿が見えて、切れた息で叫んでいた。

「新一さん、待って!!」

点滅する信号。

ゆっくり振り返る彼

その時、目の前に車が停まったかと思うと、開いたドアから手が伸びて引きずり込まれたのは一瞬の出来事だった。


口を覆われた瞬間、何かを嗅がされたのか抵抗する暇もなく意識が遠退いていく。

ぼやけた視界に最後に目にしたのは覆面姿の男だった・・・。



冷たい空気。

硬い床

重たく、動かない体。

息苦しい息。


ひんやりと

何かが頬に触れて

まだぼんやりしたまま目を醒ますと、暗がりの中、さっきの覆面姿の男が私の顔を覗きこんでいた。

驚いて声をあげようにも口はガムテープで塞がれ、体は縄で拘束されている。

どこかの倉庫だろうか・・・

まるでドラマのようなシチュエーションが私の身に起きてることを理解するのに数秒かかった。


< 151 / 177 >

この作品をシェア

pagetop