例えば君に恋しても
「八代さん、起きましたよ。」
覆面男に呼ばれて荷物の影から二人、こちらへやってくる。
一人は体格からして男だろうか。怪我をしているようで腕を吊り、片目以外は頭から首まで包帯を巻き、その輪郭は遠目でも分かるほど凸凹している。
もう一人は黒のスーツに身を包んだ金髪の女・・・
どこか見覚えがあるような気がしても思い出せない。
なぜ、私がこんなめに合っているのか。
このままでは無事に済まないことは分かっているのに拘束された体はどんなに力を入れても身動きすらとれなくて
二人が徐々に近づくにつれ、血の気が引いていく。
「綾瀬美織、あんた調子に乗りすぎじゃない?」
目を見開き、顔をグッと近づけて私の顔に唾を吐き捨てる女の顔を思い出した。
彼女は仁の秘書だ。
一度しか会ってもいなかったし、ちゃんと顔を見ていたわけでもなかったから気付くのが遅かったけれど、彼女は間違いなく仁の秘書。
「んーっ!!んーっ!!」
口を覆われていようが叫び声をあげると、私を見て彼女が「芋虫の断末魔」とケラケラ声をあげて笑った。
そして、私の口に貼り付いたガムテープを勢いよく剥がすと「せっかくだから、あなたの断末魔、もっと聞かせてよ」と不気味な笑みを浮かべる。