例えば君に恋しても


私の人生こんなんで良かったのか・・・

良いわけないのに・・・

痛さと悔しさと恐さで涙が溢れてくる。


「八代、どけて。気を失ったら俺の楽しみがなくなる」

包帯男が彼女に耳打ちをする。その声に聞き覚えがあった・・・。


でも、もう

身動きをとる力さえも無い。


「可哀想な美織、自分が壊れた玩具だってこと、忘れちゃったかな?

それとも壊し損ねちゃったかな?

君のお陰で俺は随分とひどい目に合わされたよ。

こんな姿だけど俺のことが分かるね?」


小さく首を横に振る。

解りたくもない。

知りたくもない。

知りたくない。

もうその声で喋らないで欲しい・・・。


「もう俺のこと忘れちゃったわけ?酷いなぁ、美織は。

俺がいなくなった途端にホイホイ次の男捕まえて。

君がそんなに尻の軽い女だったなんて知らなかったよ。

あまつさえ、婚約を約束したまでの仲なのに、たかだか100万の金のために仁を使って俺に復讐するなんてさ。死ぬところだったんだよ?」

穏やかなのか淡々としているのか区別がつかない。

そして復讐なんて意味の分からない話を聞きながらも

この声の持ち主が誰であるかを受け止めきれなくて

塞げない耳を今すぐ切り落としても

もう何も聞きたくなくて、言葉にならない声をあげた。


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