例えば君に恋しても


全部何もかも悪い夢だと言って

お願いだから・・・

目が覚めたら

優しい朝が来ると囁いて・・・


息苦しさを覚えた時

遠くからパトカーの音が聞こえてきた。


途端に、慌てたように体を離した彼と、パニックになる八代の声が聞こえる。

でも

もう、目を開けていられるほどの元気もない。

ただ、徐々に近づくパトカーの音に

助けが来たという安心感と、確実に此処へ来て欲しいと思う不安と

倉庫の扉が開く音

逃げ出す慌ただしい足音

ピタリと止んだサイレン音

直後に騒がしい声が聞こえるけれど

あいつらが捕まったのかまでは分からない。


誰でも良い

ここにいる私を早く見つけてっ・・・


渇いた血液が顔の皮膚を固める。

早く・・・

早く・・・

もう

死んでしまいそう・・・

最後に見た、新一さんの振り返った顔。


会いたい

会いたい

「・・・ん・・・いち・・・さ・・・」


それがもう夢だったのか現実だったのか

彼の名前を呼んだ瞬間

ふわりと体が宙に浮かんだ気がした。

私を縛る全ての物から解放するように体が軽くなる。


「もう、大丈夫。君のことは僕がずっと守るから」


大好きな声が

最後に聞こえた気がして

眠りにつくように

意識が遠退いた。






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