例えば君に恋しても
「まだちゃんと、教えてなかったよね。僕は市橋新一、ちゃんとした社会人だよ」
一瞬、人懐こい笑顔を見せた彼の姿と名前に、いつか見た朝のワイドショーが頭の中にちらついた。
「市橋って・・・市橋新一って・・・あの市橋財閥の跡取り息子っっ⁉」
目を丸くした私に「知っててくれてるなんて驚いた。
光栄だけど、その呼ばれかたはあまり好きじゃないんだ。」と、困ったような笑顔を浮かべた。
「でででで、でもっ、」
確か朝のワイドショーでは、跡取り息子の社長就任が確実になったとかならないとか、そんな話をしていたきがした。
「一部では僕が跡を継ぐような話になってるけどね。
父の考えは分からないよ?」
「そのっ・・・跡取り息子がなんで私なんかを?」
本当に今私に起きてることが夢なのか現実なのか、もうよく分からない。
「言ったよね?借りた貸しはちゃんと返さなきゃ僕のポリシーに反するんだ。」
「貸しって・・・たかだか100円でしょっ⁉」
見ず知らずの御曹司に返して貰うほどの大きな貸しなんか作った覚えはない。
「ごめんなさい。あなたに助けて戴く義理は私にないので・・・」
その辺に転がってたボストンバッグを拾い、部屋を出ようとした瞬間、掴まれた手首に優しい電流が流れたような刺激を感じた。