例えば君に恋しても


朝倉瑛士は夢の中の登場人物で

私を襲ったのはただの通り魔であると、思いたい。

そう思えた時に初めて私はようやく、一歩、未来に進める気がした。


ピリリリリッ


携帯の着信に溜め息をつく新一さんは、私を一人にすることを心配しながら「直ぐに戻る」と言って病室を出た。

瞬間、涙が溢れてくる。

事件後

一人になると途端に、理由もなく涙が溢れてきてしまう。


寂しいのか恐いのか不安なのか、分からなくて。

でも、その全てが当てハマッているようで

頭の中は真っ白なのに、ただ、涙だけが溢れてくる。


「・・・ごめん。」

いつの間にか病室の入り口に立っていた仁。

私は謝られてる意味も分からないけれど首を横に振った。

「ごめん。全部俺のせい。全部何もかも俺が悪い」

俯き、何度も謝りながらベッド脇に立った彼が、涙を拭う私の頭をそっと撫でた。


「あいつを反省させれば、美織が俺に振り向くと思った。本当に・・・ごめん。」


やっぱり、あの返されたお金に仁が関わっていたのは確かなようだった。


「秘書のこともちゃんと躾れてなかった。・・・本当に、なんて謝ればいいのか分からない。」

どれほど謝られても

彼らのしたことは変えられないし

彼らのしたことは彼らの責任であることに間違いはない。






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