例えば君に恋しても


「退院の手続きしたから、アパートまで送る。」

そっと優しく私の右手を繋ぐ新一さん。

「送るのは俺の役目。てか、俺の屋敷に帰ろう。」と左手を繋ぐ仁。


仁は冗談が凄すぎる。

苦笑いを浮かべた瞬間

キィッと音をたてて病室の扉が開くと

そこへ現れたのは三兄弟の母親と邦弘だった。


怪訝そうに私を見つめた婦人が咳ばらいすると、キッと私達を睨み付ける。


「この度の騒動、次男が少し絡んでることは耳にしました。

お詫びを申し上げますわ。

ですが、これとそれとは話が別。お戯れは止めていただきたいの。」

物静かに、だけど威圧的な婦人の表情に二人の手を離すと、納得したように婦人は頷いた。


「お父様の容態が思わしくありませんので、新一さん、仁さん。貴殿方に話があって来ました。

明日付けで新一さん、貴方が市橋家の当主を受け継ぐことになります。」

婦人の唐突な言葉に、新一さんは、らしくもなく声を荒げた。

「何を急に!俺は跡取りを辞退すると言ったはずだ。

それに、当主を継ぐときには婚約していることが昔からの条件。

例外はないはずだ。」


さっきまでの明るいムードは最早消え失せ、冷えきった空気が病室を包んだ。






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