例えば君に恋しても
「急ではありません。そんな娘のために話し合いに参加しなかったのは貴殿方二人。
話し合いに来ないというのは委任してると同じことです。
現段階では新一さんが当主に相応しい。そう判断されただけのこと。先程床に着いたお父様を安心させるのはあなたの役目ですよ。
それに例外などありません。」
「どういうことだっっ!!」聞いたこともない新一さんの荒げた声に、思わず息を飲んだ。
緊迫した空気にはさすがの邦弘も難しい表情を見せている。
「明日、就任式の前に婚約パーティーを本家で行います。
勿論、香里奈さんと。」
「豊穣家は婚約に関して納得してないと香里奈が言ってたじゃないかっ!」
「豊穣が納得しようが、しまいが関係ありません。今の豊穣にそこまでの権限はないのですから。
豊穣も理解しての婚約パーティーです。」
「そんなの納得できるわけないだろっ!!」
「あなたの理解も必要ありません。市橋に必要なのは当主の存在。ただそれだけ。」
言いたいことをいい終えた婦人は、くるりと踵を返した。
けれど、一度こちらを振り返ると新一さんを睨み付ける。
「直ぐにあなたも帰りますよ」
「ふざけるなっ!!」
新一さんが最後に思いきり声を荒らげると、数人の体格の良い男が病室に突然入ってきて、新一さんを囲むようにして無理矢理連れていく。
その様子を見送った婦人は邦弘を従え、まるで何事もなかったかのように病室を後にした。