例えば君に恋しても



あまりにも突然の出来事に言葉を失った私は力なくベッドに座り込んだ。

「あれが市橋だよ。」

跡取り争奪戦をしていた仁が思ったよりも普通そうに、呆れながら呟いた。

「あの人にとって実の息子も〃市橋〃の駒なんだ。逆らうことは許されない」


「跡取りになりたかったくせに、平気なの・・・?」

「わりとね。全然平気かと聞かれたら微妙だけど、でもその代わりに自由が手にはいる。」


座り込む私の前で屈む。

仁は優しく笑うだけだった。

「もしかしたら一番凹んでるのは美織じゃないの?」

ショックじゃないと言えば嘘になる。

けれど、叶わぬ恋とは知っていた。

だけど、こんなに突然、そんな日がやって来るとは思いもしなかった。

あまりにも突然過ぎて実感さえわかない。

わかないけれど・・・

呆然としながら溜め息が何度もでてしまう。

泣きそうな気持ちを紛らそうと、不自然なくらいにこぼれる溜め息。

「大丈夫?」

仁の優しい声。

新一さんが突然、遠すぎる存在になってしまった実感も沸かないのに

それでも頭のどこかでちゃんと理解してる。

矛盾した気持ちが入り交じっている。

どうしようもないほど

頭の中は真っ白だ。



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