例えば君に恋しても


「大丈夫?」

もう一度、囁くように聞いた仁に

首を傾げながら頷いた。

「分からない・・・。

けど、もう二度と新一さんに会えなくなるの・・・?


「どうだろ?君が仕事を続けていれば、全く会えないわけじゃないだろ?

でも・・」

「でも?」

「難しいかもね。

当主を受け継ぐということは、今の職場に新しい別の社長を就けることになるだろうし・・・」


「・・・じゃあ、やっぱり会えないの?」

「ハッキリとは分からない。」


こんな無理強いが許されるのだろうか?

香里奈さんだって、好きな人がいるのに・・・


それとも諦めることを決意したの?


こんな風に無理矢理結婚することを受け入れたの?


「・・・アパートまで送ろうか?」


ただ、優しいだけの仁に、微かに頷く。


好きって一度も伝えないまま・・・

突然、想いを伝える道も閉ざされた。


仁に手を引かれて

連れて歩かれるまま、消えてしまった選択肢の穴埋めを必死に探す。






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