例えば君に恋しても
「でもね、大丈夫。私、そんなに彼のことよく知らないし。
直ぐに忘れられる。
そう、キスだってまともにしたこともないような関係だったんだから。
学生の片想いみたいなものね。
会わなくなれば、忘れちゃえる。
それに最初から叶わない恋だって分かってたし。
だから、気持ちも伝えてなかったし。
それにもし、新一さんと付き合えるようになったとしていても、それは彼の未来を奪いかねない行動だわ。
大事になる前に、何も始まる前に終われて助かったかも」
アパートに着くまでの帰りみち
気付けば言い訳ばかりしていた気がする。
仁は余計な事は何も言わずに、ただ、聞いてくれていた。
「大丈夫?」
車から下りた私に仁から最後の質問。
ひきつった笑顔で頷いた。
人通りの少ない住宅街。
見合わない高級車
時おり、どこからか聞こえてくる生活音。
これが私の当たり前の日常ではない。
私に相応しいのは気楽なお一人様生活。
私だけの世界。
「美織、貰い手が見付からなかったら俺が貰ってあげる。」
「・・・常談でも・・・ありがとう。」
額の傷痕をそっと撫でる仁。
悲しそうな顔。
私の視線に気付いた彼は肩をすくたせた。
「別にさ、君に怪我をさせてしまったことを後悔して、こんなことを言ってるわけじゃないよ?
君なら、ありのままの自分でいられるんだ。」
珍しく素直な言葉なの・・・かな?
今の私には少し痛い。