例えば君に恋しても
「僕はただ、君が心配なだけ。助けるとか助けないとか、そんな大それた話をしたいわけじゃないんだ。」
「・・・じゃあ、一体なに・・・?」
私の問いかけに一瞬だけ、目を泳がせた彼は空いてる方の手の指先をその額にあてた。
「例えが難しい・・・
例えばそう・・・ほわほわのふわふわした弱そうな生き物が道端で瀕死になってたらどうする?」
「えっ?
ほわほわ?
ふわふわ?」
聞いたこともない例えに、首を傾げても、彼の表情は至って真剣そのものだ。
「しかもだ。そんなほわほわのふわふわの生き物がまだ元気だった頃に自分が助けられてるという過去を持っていたら⁉」
持っていたら⁉なんて聞かれても・・・
「た、助けてあげるのでしょうかね・・・?」
困りながらも適当に答えた私の回答は彼を満足させる事ができたらしい。
彼は小さく何度も頷いた。
「だろ?だから君が元気になるまでの間、僕に介抱させて欲しいんだ。」
真面目すぎるその瞳を直視できない。
あの100円で、この御曹司は一体どれほど救われたと言うのだろうか。
あまりにも、非、リアルな出来事に、自分のおかれてる状況さえ忘れて思わず笑ってしまった。
どうせ行く宛もない。
申し訳ない気持ちもあるけれど、ここはお言葉に甘えてみよう。
ボストンバッグを足元に置いて、私は彼に深々と頭を下げた。
「図図しくて申し訳ないけど、少しの間、よろしくお願い致します」
「良かった・・・」
嬉しそうな声が頭の上から聞こえて
久しぶりに心から笑顔になれた。
これが夢でも現実でもどちらでも構わない。
久しぶりの安堵感は優しく穏やかに私を包んだ。
まるで君は
人生、落ちるところまで落ちようとしていた私に起こった
たった一つの奇跡のよう。
捨てる神あれば拾う神あり。
その日、私は久しぶりにふかふかのベッドの中で深く、心地よい眠りについた。