例えば君に恋しても
「実は、僕は噂の通りもうじき、跡取りとして会社を継ぐことになると思います。
敏腕な秘書を探していたそんな時、美織さんに出会いました。
彼女の細やかな気配り、予想配分。その他にも、彼女の優れた能力に勝る人物は私の周りにいない。
彼女が婚約してることを知りながら、僕は美織さんを僕の秘書へとスカウトしました。
結果、彼女の素晴らしい縁談を見送らせてしまったこと。
ご両親にお詫びせずにはいられなく、誠に申し訳ありません。
もう一度、深々と頭を下げる彼。
うん。
私とあなたの間にそんな物語があることを私も今、始めて知ったわ。
このぺてん師め。
それでも
安心したようにため息をついたお父さんとお母さんはお互いの顔を見合わせた。
「美織、お前から婚約を破棄したと連絡があってから、何があったんだと本当に心配だったんだ。
母さんも近いうちにお前に会いに行くって気が気じゃない様子だったんだぞ。
でも、そうか・・・
自分でそう選んだのならお前のしたいようにしなさい。」
安心しきった二人の表情を見て
瑛士さんのこと、騙されたに違いないこと、余計な心配をかけたくなくて、何も言えなかった罪悪感が引っ掛かっていた胸の内から
すーっと消えていくのを感じた。
きっと、この人も相当な詐欺師になれるだろう。
帰り道の車中
笑顔の両親を思い出して
新一さんのスーツの裾を軽くつまんだ。
「・・・美織ちゃん?」
「私の両親を安心させてくれてありがとう。」
同じ嘘でも
誰かを傷つける嘘もあれば
それとは真逆の意味をもつ嘘もあるんだってこと。
そう。
だからね。
私はきっとこの先、あなたの事だけは信じない。
あなたがどんなに良い人だったとしても。