例えば君に恋しても
仁の「部屋」の前に車を停めると、秘書は簡単に明日のお迎えの時間を彼に伝え、自分の車に乗り替えると直ぐに去ってしまった。
「彼女は住み込じゃないの?」
首を傾げる私に仁は「まさか」と笑う。
「秘書はあくまでも仕事に関する事だけだよ。たまにこうやって送り迎えを頼むこともあるけれど、いつもじゃない。」
仁の話を聞いて、それもそうかと納得した。
秘書だからといって、なんでもかんでもしてくれるわけじゃないんだろう。
彼が部屋の呼び鈴を鳴らした直後、待っていましたと言わんばかりに扉が開き、スーツを着た男性が私たちを
いや
仁を出迎えた。
「これはこれは、ご友人をお招きですか?」
すらりと背が高く、決め細やかな顔立ちをした、どこか日本離れした顔つきのいわゆる超絶イケメンが爽やかな白い歯を見せる。
「いや、これは新しい住み込みのメイド。仕事、適当に見学させてやって」
「それはそれは・・・」
私を見て頬笑む男性
「私は仁様の執事の峰岸と申します。新しいお仲間ですね。
よろしくお願いします。」
「え?あっ!はい!
綾瀬美織です。よろしくお願いします!!」
本物の執事を見たのは生まれて初めてで、なんだか想像通りの執事像にじんわり感動を覚えてしまう。
「あ、君、美織って言うんだ?」
そんな感動を仁の憎らしい声が直ぐに掻き消してしまうのは言うまでもない。