例えば君に恋しても
「別に?俺はただ、この跡取りの件に無関係な人間を巻き込むのが嫌なだけ。」
やっぱり、ここの兄弟は跡取りのことで揉めているのは間違いないんだ。
「君は何も知らない周りと同じように、ここで好きなように働いて、金が貯まれば出ていくなりなんなり好きにすればいい。」
ぶっきらぼうに、だけど、遠回しには私を匿おうとしている気持ちが少なからず伝わってくる。
仁の言うことが真実なら。だけど・・・。
でも、確かに新一さんが私を何かに利用するつもりで優しくしてくれたなら、あんな100円の貸しだなんて言われるよりもそれは納得のいく話だった。
でも、私は新一さんのことを何も知らないけれど
彼は仁の言うような人間だとも、なかなか思えない。
だって
疑うのにも
信じるにも
私はこの人たちのことを知らなさすぎる。
「お願いがあるんだけど。」
「何?」
「私も、働き口が欲しいのは本当だけど、少し時間をくれないかな?」
「好きにしなよ。」
言いたいことを言った彼は私を残して部屋を出ていく。
お洒落な家具が白色に統一されたインテリアのこの部屋は、一見、可愛らしくも見えれば、それとは真逆に殺伐とした寂しさを感じさせる。
ただ、部屋に残された私は突然の出来事をようやく、一人で悶々と頭の中で考えていた。
「瑛士さん。あなたがいなくなった途端、私・・・ずっと悪夢の中にいるみたい。」
呟いても彼はもういない。。
目頭が熱く感じた時に
ふと浮かんだのは
いつも辛いとき
突然やってくる、あの人懐こい笑顔の天然御曹司の顔だった。