例えば君に恋しても
向日葵の囁き
「綾瀬さん。綾瀬美織さん」
翌朝、一人のメイドに起こされた私は、まだ眠たい目をこすりながら、自分が仁の部屋に来たことを思い出していた。
「昨日はよく眠れましたか?」
「ええ・・・」
考え事をしている間に気づけば眠ってしまっていた。
「何かご予定はありますか?」
「いえ、特別何も」
「それなら、お仕事、ちょっと手伝ってみませんか?」
こんな部屋に閉じ籠っていても嫌なことばかりが頭に浮かぶだけだ。
今後の事もどうすればいいのかまだ何も浮かんでいない。
せっかく、お仕事見学として来たからには、体験してみてもいいかもしれない。
「・・・やります。」
私の返事に、30代半ばくらいのきれいな女性が優しく頷く。
「クローゼットに仕事着が入ってるので、支度ができたら、仁様を起こしてリビングにお連れして下さい」
「はい。」
時計はまだ朝の5時を過ぎたばかりだ。
私はメイドが部屋を出ると直ぐにクローゼットの中にあった、黒のワンピースに袖を通し、白いエプロンを鏡の前で整えた。
「執事は燕尾服じゃないのに、メイドは普通にイメージ通りの服なのね・・・」
髪を結わえ直して、気分は乗らないけれど、隣の仁の寝室のドアをノックした。
中からの返事はない。