例えば君に恋しても
仁でも新一さんでもない彼の姿を見て、咄嗟に彼が市橋財閥の三兄弟の末子の邦弘だということを悟った。
「あ、やっぱり新しいメイドさんだ。
新一兄さんの事を知ってるってことは、兄さんこっちに帰ってきたっとこと?」
仁と良く似た、顔つきで、新一さんと同じ声の彼に、私は思わず息を飲んだ。
「僕はね新一兄さんと、仁兄さんの弟。邦弘だよ。僕に挨拶がなかったってことは、どっちの兄さんのメイドさん?」
やっぱり・・・。
彼がこの一番大きなお屋敷で両親と住んでる末子だ。
まだ、学生だろうか?
幼さを感じる。
「仁・・・様に雇われています。」
体験。なんて言いづらくて、俯くと「仁兄さんのほうか。大変だね」と、同情の声に思わず苦笑いしてしまう。
「僕ね、今夏休み中で暇なんだよね。話に付き合ってくれない?」と、顔は本当に仁に似てるくせに人懐こそうな性格。
仁とは中身は真逆だろう。
「お話しって?」
深いる話なら、断ろうと思ったけれど、彼は立ちあがり、向日葵の花を優しく撫でながら、鼻を近付けて香りを楽しむ。
「この花畑は僕の趣味で、自分で作った花畑なんだ。綺麗でしょ?」
「この・・・広いお花畑を?」
私が驚きながら聞くと、彼は少し照れ臭そうに「峰岸にも手伝ってもらったけど」と、呟いた。
「峰岸さんが?」
「うん。彼は僕の住んでる本家に、あにたちが住んでる離れ、全体の使用人のリーダーみたいな人だからね。
なんでも手伝ってくれるし、市橋家のことは、彼がなんでも良く知ってるよ。」
「そうだったんですね。まだ何もよく知らなくてごめんなさい。」
頭を下げて見せると、その手のひらが私の頭を軽く撫でた。
その手のひらはまるで新一さんのようで、思わず彼が私を探していないか気掛かりになってしまいそう。