例えば君に恋しても
「あっ・・・」
何かに気付いたように邦弘は私の右手を掴むと
昨日、仁に掴まれてうっすら指の跡が残ってる手首を見つめた。
「仁兄さんは手荒だなぁ。」
ふうっとため息をつく彼に私は首を傾げた。
「何で仁だって分かったの?」
「仁兄さんはね、思い通りにならない物を直ぐに壊そうとする癖が昔からあるんだ。
だから、君も壊されないように気を付けなよ?」
「壊すって・・・」
まるで、幼い子が癇癪を起こして玩具を壊してしまうような言い回しに、思わず苦笑いをすると、邦弘は真剣な眼差しで私を見つめた。
「信じる信じないは君の勝手だよ。
でも、仁兄さんに人生を壊された人間はたくさんいる。
悪知恵だけは誰よりも働く。ある意味賢い人間だ。
君も、壊されないようにね」
うっすらと不敵な笑みを浮かべた邦弘を見て、一瞬、背筋に寒気が走った。
優しい声色なはずなのに、一瞬だけど不気味さを感じたんだ。
「ええ・・・忠告ありがとう。私、そろそろ仕事に戻ります。」
掴まれていた手を払って頭を下げると「またね」何事もなかったように優しく頬笑む彼に、私はもう一度頭を下げて、足早に仁の屋敷へと戻った。