例えば君に恋しても
「美織ちゃんだろ?」
少し疲れた様子と焦りが入り交じったような新一さんの声。
声を聞いて安心した途端に、勝手に家を出てきた事を思い出して、何を言葉にして良いのか分からずに言葉に詰まってしまう。
「どこにいるの?今朝、部屋に行ったら君がいなくて・・・」
「・・・仁さんの屋敷に・・・いるの」
「なんで⁉」
突然声を荒げた新一さんの声に、驚いて肩がビクッと震える。
「仁さんが・・・私をメイドとして雇ってくれるって・・・」
怒らせた。
そんな不安から、声に詰まりながらも正直に答えたというのに
新一さんは何も言わずに冷たくガチャリと電話を切ってしまった。
ツーッ・・・
ツーッ・・・
虚しく鳴る音は
新一さんの無言の怒りのように思えて
力なく携帯を床に転がした。
一体、どうしたいのか自分にも分からない。
帰る場所もないのに
どこかに帰りたくて
涙が溢れてくる。
帰りたい場所は決まってる。
まだ
瑛士さんの婚約者だったあの頃に帰りたいんだ。
だけど
どんなに望んでも過去には戻れない
それでも
無理矢理切り開かれてく道の中で
選択をして歩いてるのは自分自身なのに
それでも
選ぶ道が尽く間違いであると理解している。