例えば君に恋しても


「美織ちゃんだろ?」

少し疲れた様子と焦りが入り交じったような新一さんの声。

声を聞いて安心した途端に、勝手に家を出てきた事を思い出して、何を言葉にして良いのか分からずに言葉に詰まってしまう。


「どこにいるの?今朝、部屋に行ったら君がいなくて・・・」

「・・・仁さんの屋敷に・・・いるの」

「なんで⁉」

突然声を荒げた新一さんの声に、驚いて肩がビクッと震える。


「仁さんが・・・私をメイドとして雇ってくれるって・・・」

怒らせた。

そんな不安から、声に詰まりながらも正直に答えたというのに

新一さんは何も言わずに冷たくガチャリと電話を切ってしまった。

ツーッ・・・

ツーッ・・・

虚しく鳴る音は

新一さんの無言の怒りのように思えて

力なく携帯を床に転がした。



一体、どうしたいのか自分にも分からない。


帰る場所もないのに

どこかに帰りたくて

涙が溢れてくる。



帰りたい場所は決まってる。

まだ

瑛士さんの婚約者だったあの頃に帰りたいんだ。


だけど

どんなに望んでも過去には戻れない

それでも

無理矢理切り開かれてく道の中で

選択をして歩いてるのは自分自身なのに

それでも

選ぶ道が尽く間違いであると理解している。


< 52 / 177 >

この作品をシェア

pagetop