例えば君に恋しても
その日
私は世界で一番愛してた人の名前を携帯から削除した。
もう
恋はいらない。
愛も要らない。
欲しいのは一人で強く生きてく強さ。
夕方、メイド服を脱ぎ捨てた私は、仁の寝室で彼の帰りを待つことにした。
仁の言うように私がこの3兄弟の跡取り争奪戦に巻き込まれなきゃいけない理由はない。
仁に助けてもらう理由もない。
引き返すんだ。
あの日、愛する人との部屋を出たあの日から
やり直す。
そう決めたんだ。
何も知らず帰宅した仁は、寝室に私の姿を見つけて、少しだけ驚いた顔をした。
「何?勝手に俺の部屋に入ってるの?」
「話があるんだ。」
真っ直ぐに、仁の瞳を見つめた私を、彼は呆れたような顔で見て、鼻で笑う。
「話って何?」
「私、仁には頼らない。
ううん。
誰にも頼りたくない」
「いく宛もないくせに?」
スーツの上着を脱ぎ捨て、ネクタイを弛めながら、彼は愉快そうに一人で笑っている。
「最初から行く宛てがないことくらい分かってて、出てきたんだよ。
だから、怖いことなんか私には無い。
そういうことだから、折角、ここで働かせてくれるって言ったあんたには悪いけど、やめる。」
そう言って、部屋を出ていこうとした私の腕を、昨日とは比べ物にならないほどの強さで掴まえた。