例えば君に恋しても
新しい門出はお一人様で?
私が仁の家を出てから1週間。
これまでのことがまるで遠い昔の出来事だったようにも感じるけれど、仁に捻りあげられた腕はまだ完治せずに痛む時がある。
8畳一間、トイレ洗濯機共同の風呂なしの寮というか、職場が貸し出ししてくれてるアパートに拠点を構えた。
風呂がないこととトイレ洗濯機共同というのが、今までの暮らしを思えばカナリ辛いとこだけど、これは私が望んだ事だ。
あの日、仁の家を出た私達は新一さんが私のために借りてくれたあのマンションに戻っていた。
痛がる私におろおろしながらも腕を手当てしてくれた新一さんは「最初に言ったように生活が軌道に乗るまで、ここに居ればいい。仁の事で不安だったら一緒に住もう」そんなことを言ってくれた。
けれど、私は首を縦には振らなかった。
一人で生きてくって決めた。
それに、新一さんには特別、頼りたくはなかったんだ。
恐いから。
うん。
そう、新一さんが放っておけないと言ってくれたのは嬉しかった。
恐いのも何かされてしまうような恐怖ではない。
優しいから恐いんだ。
どうしても、信じてしまいそうになることが恐い。
そしてまた、裏切れるのが恐い。