例えば君に恋しても



「オフィス、ビルの清掃スタッフ?」

「うん。難しい仕事じゃないんだけどあまり人気の無い職種だから人手に困ってるんだ。

もし、働いてくれる気があるなら、話は通しておくよ。」


「本当にいいの?」

「ああ、逆に助かるくらいじゃないかな?」


コネとは言えど、住む場所もあり、誰にも迷惑をかけずに自立できると考えた私は、その場の勢いで、新一さんにお願いをした。

翌日、直ぐに面接を受けて、そのままアパートの空き部屋を借りることもでき、家具は前の住人が置いていったものもあり、私が入居することになって8部屋全ての部屋が埋まった。

住人の年齢は下から上まで幅がある。

まだ若い独身の女の子だったり、今年の春に高校を卒業したばかりの男の子だったり、バツイチの定年間近のおばさんだったり、共用部分があるだけに顔を合わせることも多々あってか、どの人も愛想が良くて、おんぼろアパートだけど、とても救われた。

「ここ、家賃が1万じゃない?だから、このまま行けば、予想より早く貯金が貯まりそう。」

洗濯機を回しながらわくわくした表情でそう話すのは入社4年目の、住人では私と一番歳の近い絢香だ。

「お金貯めて何かしたいことあるの?」

「うん。海外で日本語学の先生をやりたいんだ。」

「素敵な夢だね」

こんな風に誰かと楽しくお喋りをしたり

ごく普通の日常を取り戻し始めた私にも

いつか

確たる夢を持てる日がくるのかもしれないと思えるようにもなった。




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