例えば君に恋しても




翌朝、出勤しユニフォームに着替えるなり、私を見つけた60間近の社長が、私一人だけを別室に呼び出して、今にも消え入りそうな弱々しい小さな声で、周りを気にするように話始めた。


「綾瀬君、君、この会社始まって以来の大きな役割を与えられたからね?」

「へっ?大きな役割って、清掃ですよね?」

わざわざ小声で喋る社長に対して普通のトーンで切り返した私に「静かにっ!」と、ひそひそ声で、精一杯怒鳴る。


そんな、異様な社長の態度に小首を傾げると「詳しくは話せないけど、絶対に失礼の無いように!」

かなりキツめに注意を受けて、よく分からないまま社長に車で今日から私が清掃に入るビルの前まで送り届けられると、去り際に社長が「ここのビルの受付に行けば分かるから!」と、だけ言い残していなくなる。


ビルを前にした私は、少しだけ息を飲む。


ビルの大きさ自体は特別周りから秀でて大きくはないけれど、流石市橋グループの清掃会社なだけあって、私が今日からお掃除するビルは、市橋グループの中でも世界規模に知られている上場企業の看板を背負ったビルだった。

名前は日常当たり前のように見聞きする社名だけど、いざ、その会社に足を踏み入れたことがあるか?と聞かれたらあるはずがない。

様子を伺うようにビルの中に入ると、眩しいほど綺麗な受付嬢が私の格好を見て笑顔を見せる。




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