例えば君に恋しても
「お疲れ様です。清掃業者の綾瀬さんですね?社少々お待ちください。」
名乗る前にはもう、名前も知られている。
まだエントランスに来たばかりだというのに、会社の圧倒的な風貌は、足を踏入れた瞬間から感じている。
最早、どこかのお城の様なエントランスに、一般市民の私なんかが立ってていいのかさえ考えさせられてしまう。
受付嬢が内線を切ると、数分後にエレベーターが到着した。
なんだかエレベーターさえも特別豪華に感じてしまうのは私の居住アパートとの差が激しすぎるからなんだろうか・・・。
エレベーターを下りてきたのは、一般市民をずば抜けて通り越したオーラのある俳優さんのように見える綺麗な顔立ちの若い男性だった。
規模の大きすぎる会社に勤めるのも予想以上の人達だと、彼を見た後にもう一度、受付嬢を振り返ってしまう。
「お待たせして申し訳ありません。」
呆気に取られている私にその超絶イケメンが軽く頭を下げるから、慌てて首を横に振った。
こんなイケメンに仕事上とはいえ声をかけられるなんて、私の人生であり得るわけない体験にドキドキしてしまう。
「社長室へご案内致します」
「あっ・・・はい。」
大手になると、掃除するだけなのにわざわざ社長に挨拶するのかと、ギクシャクしながら、エレベーターに乗る彼に小走りで着いていく。
最上階へと向かうエレベーターの中、超絶イケメンとこんなに小さい箱の中に二人と思うと、呼吸で空気を汚してして迷惑をかけないか、バカなことばかり頭に浮かぶ。