例えば君に恋しても
「この暑いのももうじき終わりになりそうですね」
取り留めの無い会話にも息を止めてる私には頷くことしかできない。
まだ着かないのかと、点滅するエレベーターのランプを見ながら、息が苦しくなって限界を感じた頃、ようやくゆっくり開いたエレベーターのドア。
同時に我慢していた呼吸を取り戻して、仕事する前から息をきらしてる私を、一瞬、不思議そうに見た彼だけど「こちらです。」冷静な穏やかに頬笑む冷静な態度。
なんだか、こんな雰囲気の人に見覚えがあるような気がしたけれど思い出せない。
エレベーターを下りるとすぐ目の前に社長室の名前と大きな扉。
彼がゆっくり扉を開いたその先に見えたのは
いかにもな椅子に座って書類を眺めている新一さんの姿だった。
思わず二度見してしまった私に気付いた新一さんは、視線だけ上げると「どうぞ?」聞いたこともない、ちょっと冷たい声を私に向けた。
私を連れてきてくれた彼に先導されて中に入ると、新一さんは書類を机の上に起き、笑み一つ無い表情で私を見つめた。
「社長の市橋新一です。今日から君には僕の部屋の掃除をしてもらいます。」
僕の部屋の掃除?
驚いて、案内してくれた彼に視線を向けると、彼はわざとらしい咳払いを一つして見せる。
「事例がなかったのですが、社長室専門の清掃スタッフを雇う事になったんです。
なので、あなたは今日からこの部屋を専門に清掃をお願いします。」