例えば君に恋しても
「あなたが何を考えてるのか分からない。」
あまり、困らせないで欲しい。
彼の言動はまるで、私を勘違いさせるような事が多いけれど、私は仁から聞いてちゃんと知ってる。
市橋家の息子はいつかちゃんとした相手と結婚しなきゃならないこと。
既に決まってる相手がいるのかは私には分からないけれど、そのちゃんとした相手が私ではないことはバカでも分かることだ。
「猿でも分かるくらい、分かりやすい態度で接してるのに、それを分かってくれない君の事が逆に僕には何を考えてるのか分からない。」
「それなら、私は猿以下ってことなんじゃないですか?」
「君はひねくれてるな・・・」
「そう思うなら他の人とチェンジして下さっていいですよ。」
喧嘩をしたいわけじゃないのに、なぜか思うようにならない状況に、膝の上に置いた両手をきゅっと握りしめた。
すると、私の前にしゃがみこんで、困ったように眉を下げると私と同じ目線になった彼は、言葉を詰まらせながら、私の握りしめたままの拳をその大きな手のひらで包んだ。
「ごめん・・・
だけど、そんなに僕が嫌い?」
切なそうに潤んだような瞳が、私の視線を捕らえる。
「嫌い・・・じゃないけど」
むしろ、嫌いじゃないから困るんだ。
だって、馬鹿な私には新一さんの考えてることがまるで読めないんだから・・・。
彼が私を異性として見るわけがない。
なら、拾ってきた犬を見るような目?
尚更、理解できない。