例えば君に恋しても



この人は不思議だ。

あの二人の兄弟だからこそ、気を許してはいけない面を持っているはずなのに・・・

もし、新一さんの言動すべてがそのまま素直にストレートな意味を持っているとすれば、今まで生きてきた中で、こんなにも心優しい人と私は出会ったことがない。


いざというときに迷ってしまう。

昔から私の悪い癖。

結局、こんな風に切なそうな目で見られてしまったら、結局、折れてしまうのだ。

それが例え相手が悪い場合であったとしても。


「嫌いじゃないならそこまで僕を拒まないで?」


捨て犬は私の方なのに、立場がまるで逆のよう。


「分かりました。でも、新一さんの言う通り、私がひねくれ者なのは間違いないですよ。だから気に入らなくなったら、うちの会社にはもっと良い人がいるからいつでもチェンジして下さいね」


肩を落としながら苦笑いを浮かべた私の頭を、少し強めにくしゃくしゃっと撫でながら、微笑んだ新一さんの笑顔に窓から射す陽の光が映えてその笑顔をよりきらきらと輝かせた。


「初めて会った日、僕の前に現れた美織ちゃんは眩しいくらいきらきら輝いてたよ。

今は辛くてそんな風に自分を卑下してるのかもしれないけれど

いつか僕が君を輝かせてあげるから」

なんてキザな台詞で

なんて優しい言葉だろう。


こんな風に言われたら

騙されても良いと思ってしまう女性がこの世のなかにたくさんいることを知ってて言ってるのかしら・・・?


私の新しい門出に

隣に新一さんがいるならきっと何も怖くはないと錯覚してしまう。


本当に、だから信じてはいけない人。


分かっててもその言葉に思わず微笑んでしまう私は、仁の言うように

弱者に違いないのだろう。


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