例えば君に恋しても


「おいで・・・。」

泣きじゃくる私の肩を抱きしめた新一さんは

私の心を鏡の様に写したみたいに震えていた。


「僕は側にいるよ。

君の痛みを代わってあげるから泣かないで。

お願いだから

そんな奴を想って泣かないで。

お願いだから

僕以外に、揺れないで・・・?」


「おかしいわ・・・だって私はあなたのなんでもないのに・・・」


そう、言葉と裏腹に

あなたの言葉で安心を感じる私がどこかにいた。


「嫌なんだ。君が誰かの事を考えてると思うだけで・・・


冷静になんかなれるはずがない。」


「まるで嫉妬ね」


その温もりと匂いが


あんなにも乱していた心をいつの間にか、穏やかにしてくれる。

「嫉妬だよ」

可笑しそうに笑う吐息が耳をくすぐる。

こんなにも、嫌な自分を見せた他人は私にとって初めて。

瑛士さんにもこんな醜い自分を見せた事はなかった。

嫌われたくなんかないから・・・

それなのに

どうしてこの人は、こんな私さえも受け止めてくれるんだろう・・・


こんなにも掻き乱してくるのに、どうして結局はこの人で安心も覚えてしまうんだろう・・・。


不思議な人。


まるで新一さん自身が魔法のかたまりみたい。



「嫉妬する男は嫌い?」

体を離して、不安気に見つめてくる彼の言葉をそのまま真に受けてしまったら、痛い目に会うのは必然だ。


曖昧に首を傾げて見せると、彼は鼻先が触れるほど近付いてくる。



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