例えば君に恋しても

「恋愛にそんなものあるって、新一さん、まさか本当に信じてるの？」

呆れて肩を落とすと、彼はくすくす笑いながら私の頭を撫でる。

「そう。この世の中に保証書付きの恋愛なんかないんだ。

あるとすれば、婚姻届くらいだろ？

でも、そんなものに、判を押したからって、君は今すぐに僕を愛して、僕の気持ちを何の疑いもなく受け止められる？」

その言葉にハッとさせられた私は、彼の方が私なんかより一枚上手なもんだと、笑ってしまった。


「そうよね。

それでもやっぱり恐いの」

「僕が恐いの？」

困ったように彼が聞くから、私はゆっくり首を横に振った。


「彼を本当に愛してたから恐い。

今は新しい恋なんてできると思えないし、そんな気分でもない。

一人のほうが誰にも揺さぶられることもなく、心の波も静かなものだわ」

「それは、傷つきたくないだけの言い訳だよ。」

「そうね、もしかしたらそうなのかもしれないけれど・・・」

「もしも、僕が君に傷つかない恋を教えてあげれるとしたら？

幸せなだけの恋を教えてあげれるとしたら？

そんな恋を・・・してみたいとは思わない？」


彼がどれだけ、経験が多かったとしても、どれだけ女慣れしていたとしても、幸せなだけの恋なんてあり得るわけがない。