例えば君に恋しても


「その目、僕を疑ってるでしょ?」

「うん。」

キッパリサッパリ答えた私に、また、彼は口の端をヒクつかせる。

「いいよ。信じなくても。それでも良いから僕の恋人になってよ。」

「嫌・・・」

「・・・僕は君のタイプじゃないって言いたいわけ?」

「違う。」

さっきから、苛ついたり喜んだり、ころころと表情を変える新一さんに、私は強めに「今は誰とも付き合いたくない」そう断言すると

なぜか、嬉しそうに笑った彼は「じゃあ友達以上恋人未満ね!!」と強く言う。

それって、一番曖昧な表現よね?

首を傾げる私に彼は続けた。

「だから、僕は今の段階で君の一番の特別な相手ってこと。

勿論、僕にとっての君もね」


こんなにも、よく分からない事を清々しく言ってしまう、彼に最早笑うしかない。


彼にはこの先ずっと勝てそうな気がしない。

私はきっと、この人の前では常に弱い人間だろう・・・。


「それで?そういえばなんでこんな所に新一さんがいたんだっけ?」面倒になって話を逸らすと

「さっきの話に否定しないってことはそれでOKってことだよね?」

意外としつこく確認するから、仕方なく頷いた。

「じゃあ、僕がここにいる理由を説明するために、どっかで食事でもどう?」



「ごめんなさい。食事なら既に済ませたから理由だけ教えてくれればいいわ」


試すように笑って見せると、彼はひょいと物を抱えるように簡単に私を抱きかかえる。


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