例えば君に恋しても


ファミレスなんて、お坊ちゃんの舌には合わないのか渋る彼を店内に押し込むと

「綾瀬さん⁉」

聞き覚えのある透き通った声が聞こえてきた。


声のする方を見ると

そこにいたのは絢香だった。

瞬間、あの彼も一緒だということを予感して、一気に血の気が引いていく。

思わず、新一さんのスーツの袖をきゅっと握りしめた。

手のひらに嫌な汗が滲む。

「お友だちかい?」

「同じ会社の、アパートの子よ。」

「苦手なの?」

「いいえ、彼女のことはとても好きよ」


私たちを見つけて手を振る絢香に、小さく手を振り返すと、新一さんは店員さんに彼女達の隣の席へ案内するように告げる。

「やめて。大丈夫よ。彼女、久しぶりのデートみたいだから、お邪魔はできないわ」

そんな事を言ってると、遠くから絢香が「こっちおいでよ」と店内に響く声で呼び掛けてくる。

「ほら、お友だちもそう言ってる」

「でも・・・」


そう言いながら

私の視線は、背を向けて座っている絢香の恋人の後ろ姿に釘付けになっていた。

バクバク今にも爆発してしまいそうな心音が、まるで耳もとで聞こえてくるように激しく鼓動を打ち付けている。

ゆっくり、先を歩く新一さんの後ろを

顔を伏せながらついていく。

まるで、世界がセピア色に時をスローモーションで映しているよう。


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