例えば君に恋しても
彼が瑛士さんじゃなくて、安心したはずなのに
瑛士さんによく似た彼に、大切にされている絢香にいつの間にか嫉妬を感じていた。
彼が絢香の名前を呼ぶたびに
彼に、私の名前を呼んでもらいたくて張り裂けそうだった。
全くの別人なのに
彼に瑛士さんを重ねてた。
それでも
彼が瑛士さんじゃなくて安心したのは本当。
世の中には似ている人がいる話しはよく聞く話だ。
ファミレスの窓の向こう。
暗がりに消えてく渇れの姿を、見えなくなるまで見つめてた。
絢香から奪いたいなんて思わない。
だって彼は似ていても瑛士さんではないから。
そう、似てるだけで恋するほど瑛士さんの上辺だけを愛したわけじゃなかった。
それでも、似てるだけで今のほんの一時くらい視線を奪われたからって、罪にはならないでしょ?
だけど、考えてしまう。
彼が瑛士さんだったら・・・
彼が瑛士さんだったら・・・
「面倒なことになるだけよ。」
一瞬、頭に浮かんだ甘い夢に釘を刺すように呟いた。
現実的に、彼が瑛士さんだったら大問題よ。
そう。
だから
彼が瑛士さんじゃなかったことを、私は喜べばいいだけ・・・。
もう
忘れると決めたんだから。
思い出に手招きされて泣くくらいなら・・・
バカなことばかり言って私を困らせる新一さんについて歩いていたほうが良いに決まってる。
もう見えなくなった窓の向こう。
心の中で呟いたさよならが、誰に向けられたものだったのか
・・・自分でもよく分からなかった。