例えば君に恋しても


スプーンの先で、パフェの一番上に飾られたバナナをいじる。

話の出だしって難しい。

しかめっ面の新一さんに苦笑いを返して

「ただ、似てたの。」と、それを伝えるのが精一杯だった。


「・・・元婚約者に?」

「そう。だから、驚いて見てしまっただけ。」

そのまま口を閉じた私の前で、彼は一人言のように何度も「そうか・・」と、呟いた。


そして「不安だ」と続けた。

「何が不安なの?」

「君があいつに奪われてしまわないか」

「冗談でしょ?絢香の恋人よ?」

「それでも。」そう言った後で間をおくこともなく「君が僕以外の男に心を奪われない保証が欲しいっ!」と言うもんだから、思わず口に入れかけていたバナナを吹いてしまった。


勢いよくバナナが、彼の額目掛けて飛んでいく。

べちゃりとその額に張り付いたバナナと、私の笑い声

それと、情けなさそうな彼の顔。

「何してんの?汚い・・・」

張り付いたバナナを慌てて取ってハンカチで額を拭くまでの時間、僅か2秒。

笑いながら謝る私に、彼も段々、笑いだす。


「さっき、恋に保証なんてないって言ったのはあなたでしょ?」くすくす笑う私に「確かに。」と彼も笑う。

< 88 / 177 >

この作品をシェア

pagetop