例えば君に恋しても
スプーンの先で、パフェの一番上に飾られたバナナをいじる。
話の出だしって難しい。
しかめっ面の新一さんに苦笑いを返して
「ただ、似てたの。」と、それを伝えるのが精一杯だった。
「・・・元婚約者に?」
「そう。だから、驚いて見てしまっただけ。」
そのまま口を閉じた私の前で、彼は一人言のように何度も「そうか・・」と、呟いた。
そして「不安だ」と続けた。
「何が不安なの?」
「君があいつに奪われてしまわないか」
「冗談でしょ?絢香の恋人よ?」
「それでも。」そう言った後で間をおくこともなく「君が僕以外の男に心を奪われない保証が欲しいっ!」と言うもんだから、思わず口に入れかけていたバナナを吹いてしまった。
勢いよくバナナが、彼の額目掛けて飛んでいく。
べちゃりとその額に張り付いたバナナと、私の笑い声
それと、情けなさそうな彼の顔。
「何してんの?汚い・・・」
張り付いたバナナを慌てて取ってハンカチで額を拭くまでの時間、僅か2秒。
笑いながら謝る私に、彼も段々、笑いだす。
「さっき、恋に保証なんてないって言ったのはあなたでしょ?」くすくす笑う私に「確かに。」と彼も笑う。