うつりというもの
第8章
熊野 慈澄庵


熊野の山中奥深い場所。

闇の中に激しく燃え上がる炎が四人の白装束の男達を揺らめく光で照らしていた。

庵の前で慈澄は、弟子と共に焚き火を囲み、不眠不休で護摩を投げ入れながら経を唱えていた。

ふと、その声が途切れた。

弟子達も唱えるのを止めて慈澄を見た。

慈澄が崩れる様に倒れた。

「お師僧様!」

「お師僧様!」

弟子達が駆け寄った。

「さすがに、ここまで、だな…」

「お師僧様!」

本当は、弟子達は、降伏法という霊的なものを封じる儀式に入る前に慈澄を止めた。

だが、慈澄は病と歳老いた身体から自分の寿命が残り少ないことも理解していた。

だから、止めることはなかった。


「後は、お前達に任せる…」

弟子に抱き抱えられた慈澄が声を絞り出した。

「何をおっしゃいますか!お師僧様!」

慈澄の目から光が失われ、弟子の服を掴んでいた手の力が抜けて落ちた。

慈澄はそこで息絶えた。

「お師僧様ー!!」

3人の弟子の泣き叫ぶ声は、夜陰に染まる熊野の山中に木霊し続けた。
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