うつりというもの
永凛寺


「こちらが、慈澄殿のお弟子さん方です」

その日の夜、永凛寺の本堂で、上京して来た3人の修験僧を住職が遥香達と赤井、三田村に紹介した。

「慈空です」

「慈延です」

「慈海です」

歳が上だと思われる方から自己紹介をした。

一番上の慈空でも50才くらいと思われた。

だが、3人とも、厳しい修行を積んでいるのは、容易に想像ができる容貌と身体つきだった。

「この度は慈澄さんのこと、何と言ったらよいのか…」

教授が戸惑いながら言った。

「いえ、お師僧様も覚悟の上でしたので」

慈空が言った。

「そうですか…。それで、結界のお札は、間に合ったということですか?」

命を懸けた結界のこと、それは蔑ろ(ないがしろ)にできる事ではなかった。

遥香達も、赤井達も慈空を見た。

「大丈夫です。これがダメなら、あれを止められる者がいないと言っていいです」

慈空は真剣な眼差しで言った。

「わかりました」

教授も頷いた。

「さらに、今回は滅する事まで考えたお札も用意しました」

「え!?」

「本当ですか!?」

遥香も他の者も身を乗り出した。

「はい。これまでは場所の中で動きを封じるまででしたが、お師僧様もさらに修行を積んでおられます。うつりを見つけさえすれば、何とかその存在を滅することができるかもしれません」

「うつりを見つければ?」

遥香がその言葉を繰り返した。

「はい、さすがに、うつり自体にお札を貼り付けないと無理ですが…」

「それは、可能ですか?」

教授が戸惑いながら聞いた。

「近くにいるならお札が教えてくれますので、私達で、何とかします」

慈空が心を決めた表情で答えた。

でも、彼等もそう言うしかなかったのを、遥香達は分かった。
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