うつりというもの
本堂を出たところで、赤井が遥香を呼び止めた。

「どうしたんですか?」

三田村が赤井に言った。

「お前は先に行ってろ」

「あ、一人で遥香ちゃんと話すなんてずるいですよ」

三田村がそう言うと、赤井が冗談の欠けらもない表情で彼を見つめた。

「…はいはい」

彼は諦めて外に歩いて行った。

「どうしたんですか?」

遥香はそのやり取りと赤井の表情を見てそう言った。

「渕上さん」

「はい」

「とりあえずここまで来ました。後は、我々に任せて、少し東京を離れられませんか?」

「え?赤井さん…」

「あなたの血液型がA型だというのが心配です」

「でも…」

「確かに同じ血液型は多い。それでも、あなたは、そのうつりの近くにいる事になる。それはとても危険です」

「それはそうですが…」

「あなたを5人目にしたくはないんです」

赤井は、声は小さいが強く言った。

赤井のその心からの真剣な言い方に、遥香は反論できなかった。

「わかりました。叔父が神戸にいます。しばらくそちらで泊めてもらいます」

「そうですか…。良かった…」

そう言った赤井の表情に、遥香はこの人を後悔させたくないと思った。
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