うつりというもの
遥香は忍の車で家に送ってもらっていた。

教授と季世恵は先に送った。

遥香は目の前のライトの照らす景色を虚ろに見ていた。

「遥香」

「ん?」

遥香は忍を見た。

「俺達で何とかするから」

彼は前を向いたままそう言った。

「忍ちゃん…」

「ちゃん言うな」

忍は少し笑いながらちらっと遥香を見た。

「ありがと」

遥香は、自分が巻き込んだ忍に申し訳ないと思っていた。

「よろしくね」

でも、そう言うのが、彼に応える事だとも思った。

「ああ、任せとけ」

忍はさっきよりも笑顔になった。


もうすぐ家に着くというところで、あの場所に差し掛かった。

母の首が見つかった家。

「忍ちゃん、ちょっと停めて」

「え?ああ…」

忍はライトの中に見えた家を見て、その手前で、車を端に寄せて停めた。

「ちょっと待ってて」

「わかった」

家の前の街灯で真っ暗ではないので、忍は車のライトを消した。

遥香は家の前の花が供えられているところでしゃがむと、手を合わせた。


母への挨拶が済むと立ち上がって、しばらくその花を見つめていた。
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