うつりというもの
二人の顔はぎりぎり見える位置で止まって、家の中からこっちを見ていた。

女の子を見ると、ただそれを見つめていた。

母が何かを言った。

その口の動きは、実家で見た時と同じ様にうごいた。

「…が、う、つ、り…」

遥香の母は、確かにそう言った。

何かがうつりだと言った様だった。

その後は分からなかった。

すると、柳静香が、こちらへすーっと近付いてきた。

歩いている様ではなく、ただ、見えている顔だけが近付いてきた。

玄関に差し込む街灯の明かりに、その身体が現れそうになったその時、

「だめ!」

女の子が言った。

そして、何か念じる様な表情をした。

すると、甲高い悲鳴の様なものが家の中から聴こえてきて、遥香はその嫌な音に思わず耳を塞いだ。

見ると、目の前で家が激しく揺れていた。

「やめて!」

遥香が耳を塞ぎながら叫んだ。

その声で、女の子が表情を緩めた。

家の揺れは止まった。

そして、二人の顔は消えていた。
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