うつりというもの
「あの時の洞窟が壊れたのとか、やっぱりあなただったの?」

女の子は遥香を見たが、何も言わなかった。

そして、すぐに透けるように消えた。

遥香がもう一度家を見ると、玄関のドアは閉まっていた。

周りを見回しても、ここに来た時の静寂の中だった。

「今のは、現実だったの?」

その静寂の中で、彼女は呟いた。

家があれだけ激しく揺れていたのに、近所の家からは、誰も出てこなかった。


遥香は車の方に走って行った。

「忍ちゃん!忍ちゃん!」

運転席のドアを開けると、忍を揺らした。

「あ、俺…」

忍が気が付いた。

「遥香…」

「何があったの?」

「いや、分からない。家の前で手を合わせているお前を見ていたら急に意識が遠くなった」

「大丈夫?」

「ああ、もう平気。何ともないよ」

「良かった…」

遥香が忍の肩に頭を付けた。

「ごめん…」

「ううん」

遥香は彼の腕に頭を付けたまま、軽く首を振った。

忍は、気を取り直すと、遥香を家まで送った。
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