うつりというもの
山本家


その夜。

遥香はお風呂の湯船にほとんど口まで浸かって考え込んでいた。

あの女の子の霊は、何をしようとしているのだろう?

遥香はその事を考えていた。

あの子は誰にも憑いたりしないで、自由に動いている。

そして、藤見町のうつり塚の時も、今日も、あの子は霊が黄泉の国の様なところからこちら側に出てくるのを防いでいる、そんな風に見える。

そして、あの霊力。

ただ、漠然と思っていたが、本当に、慈澄の封印が失敗した時は、あの子の力がうつりを防ぐ力になるかもしれない。

もしかしたら、滅ぼす力にさえなるかもしれない。

それが、段々と唯一の方法ではないかと、思い始めていた。

そんなあの子に会えたり話せたりするのが、今のところ、自分だけだった。

そのためには、今日みたいな会えるチャンスを逃してはいけないと思った。


「だめだ…。ここを離れる訳にはいかない」

遥香はそう呟くと、湯船に少し沈んだ。

さらに、母が言おうとしたこと。

何かがうつり…

うつりにとって、不都合な事を伝えようとしているはずだった。

「お母さん、何を伝えたかったんだろう?」


遥香は、首を軽く振りながら、湯船から上がった。
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