うつりというもの
「5人目か…」

翌日の早朝、赤井は署内で係長の大山から聞いて呟いた。

だが、またその被害は世田谷区内に戻ってきた。

赤井はすぐに永凛寺の住職と教授に連絡した。


「わかりました」

住職がそう言いながら慈空を見ると、彼は頷いた。

慈空達はすぐに動いた。

南東部の宗律寺に慈延と慈海が行き、永凛寺で慈空が結界を張る儀式を行った。

遥香達が永凛寺に駆けつけた時には、既に元の場所にお札が貼られていた。


「後は、次の被害が出なければ、この結界の中で動きを止められているということです」

「すぐに、分かることではないですね」

遥香が言った。

「ええ。でも、私達で結界の中を隈なく探します。近くにいれば、このお札が教えてくれますので、その時は更に結界を狭めて、その上でうつり自体の退治を行いますから」

「よろしくお願いします」

遥香は頭を下げた。

うつりが世田谷区内に戻って来たことで、鶴円寺と道空寺の封印がそのまま使えてお札が2枚余っていた。

うつりの居場所が分かれば、さらに結界を狭めることができるということだった。

「でも、何でまた戻って来たんだろう?」

遥香はその動きが気になった。

まあ、確かに江戸時代からかなりの年月を掛けて、少しずつ南下して来ている。

もしかしたら、これまでも被害が出た後、その地域で留まりながらの南下だったのかもしれない。

本当はもっと被害が出ているのかもしれない。

遥香はそう思った。

とりあえず、後は次の被害が出ない事を願いつつ、慈空達に任せるしかなかった。


それはそうと、今日は赤井が来ていなくて良かったと思った。

きっと、自分が神戸に行ったと思っていることだろう。

まだ、こちらで関わっていると知れば、きっと、止められる。

それだけでなく、彼を悲しませてしまう。

遥香はそう思っていた。


永凛寺を出る時に遥香は周りを見回したが、あの女の子はいなかった。

彼女にできるのは、あの子に会って、うつりを何とかしてもらう事だった。
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