うつりというもの
中は真っ暗でよく見えなかった。

だが、そこに何かがいるのは分かる。

胸元のお札もさらに熱を帯びてきた。

それに合わせる様に、奥から何かがゆっくりと出てきた。

街灯の光で闇との境があったが、そこをその何かが越えそうになった瞬間、女性の顔だと分かった。

それも首だけ。

少し低い位置に浮かんだまま、そこで止まった。


「やはりうつりか」

慈空はその顔を睨みつけた。

その女性の顔は5番目の被害者田島理恵だった。

虚ろな目でこちらを見ていた。

ただ、この状況でも、まだ妖気を感じなかった。

「兄者!ここは一旦引きましょう!」

慈空はその矛盾に戸惑いながらも、妖気を感じないのは結界が効いているからだと思った。


「いや、ここまで来たら、今封印する」

彼は胸元から青白く光るお札を出すと、片手で印を切り、経を唱え始めた。

慈延と慈海は顔を見合わせたが、同じく慈空の後ろで錫杖を構え、印を切り、経を唱え始めた。
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